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夏の神様とふたりぼっち 1

天空に住む一人の少女。
彼女はこの世界の神様で、私達の最後の子供だ。
空に輝く太陽の光は
彼女の発する膨大なエネルギーの残滓だ。




小さい頃、お姉ちゃんに尋ねたことがある。

「おねーちゃん」
「ん?」
「あの人はだれ?」
「どの人?」
「あの空の向こう側にいる人」
「ええ? ……誰か見えるの?」
「いるよ 影しか見えないけど」
「…… そうなんだ」

お姉ちゃんは雲の向こうを覗き込むように眺めた後、
目を閉じて息を吐いた。

「見えないよ」
「でも…」
「ううん 嘘をついてるわけじゃないのはわかってるよ
 きっとその人は夏葉にしか見えないんだろうね」
「どういうこと?」
「うーんつまりね、夏葉は神様に一目惚れされたんだよ」


かつて世界から崇められた神様は
今、世界から忘れられ、
無機物のような冷たい輝きを放っている。


世界に一人だけの孤独に

私は会いに行く。



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静かで暗い私の部屋の中。
柔らかいベッドに腰を掛け、目を閉じる。
外の世界の音が遠くなり、体の感覚が解体される。
深く深くへと沈んでゆく。
全ての音が消えた頃、私はいつもの場所に辿り着いていた。


「神様に会いに行くんだね」

心春は待ちかねたように言った。

「うん だから心春もついてきて」

「いいよ」


たくさんの水晶に囲まれて、
紫や、緑や、海や夕暮れの光が反射するこの場所で、
心春は毎日を過ごしている。

私の最初の友達で、唯一の保護者だった心春。

その彼女が、今は私のあとをついてくるだけだ。


「ねえ 心春は何をしてるの?」

「心春?心春は眠ってる。
 夏葉ちゃんが来てくれるまでずっと」

「寂しくない?」

「眠るの好きだから。寂しくないよ」


心春のいた場所はもう遠く、小さな光の粒にしか見えない。
でも、この世界では距離なんて関係ない。
場所さえ覚えていれば、いつでも一瞬で会いに行ける。

だからこそ怖い。
いつか場所を忘れてしまった時、
それはもう二度と会えないということかもしれないから。


私は心春の手をとって、強く握った。

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