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昔の106

親友です




私の親友、と声に出して呟いてみました。
それは何度も聞いた懐かしい言葉で、心地良い響きでした。
私にも親友はいました。
あなたは彼女を超える親友として作り出したはずでしたが、
今思ってみると彼女もあなたも大差ない存在だったのかもしれません。
親友の名はメアリーと言いました。

彼女は私の三歳の誕生日にプレゼントされた人形でした。
名前は当時好きだった絵本の登場人物からとって、私がつけてあげました。
それ以来、私はどんなときも彼女と一緒に過ごしました。
彼女は私の一番の話し相手でした。
彼女はどんな話でもニコニコ笑って聞いてくれて、ある時には楽しい話を
してくれて、またある時は適切な助言をしてくれました。
私は彼女さえいれば他には何もいらないと思っていました。

小学校にも彼女を連れて行きました。
はじめは先生に怒られましたが、何度言っても聞かない私の態度を見て
先生も遂に諦めたようで、ある時からは何も言われなくなりました。
同級生の子達は最初は概ね好意的に彼女に接してくれましたが、
さすがに小学校高学年ともなると人形で遊ぶのは恥ずかしいという意識が
芽生えてくるようで、彼女への風当たりはだんだん強くなっていきました。
なので私は仕方なく、彼女をランドセルの中に隠して学校生活を送りました。
それでも何人かの子はそのことに気付いていたようです。

中学に上がっても私は彼女を鞄に入れて登校しました。
一週間くらいで彼女の存在はクラスのみんなの知る所となり、それからは
些細な嫌がらせも受けるようになりましたが、大した問題ではありませんでした。
私は彼女と一緒にいられればそれだけでよかったのです。
この頃からお姉ちゃんの干渉をうっとうしいと思い始めていました。

ある朝目覚めると、いつも隣で寝ているメアリーがいなくなっていました。
昨日寝るときには確かに隣にいたはずなのに、ベッドから落ちちゃったのかな、
などと考えながら部屋中を探しましたが見つかりません。
私は一階に降りて家族に聞いてみることにしました。

ダイニングに入ると、お姉ちゃんがいつになく怖い顔でご飯を食べていました。
私はお姉ちゃんにメアリーがいなくなったことを話しました。
お姉ちゃんは自分がメアリーを捨てたのだと話し、私に向かって
もういい歳なんだから人形遊びなんて卒業しないといけないと言いました。
私は生まれて初めて自分の意志で暴れました。
お姉ちゃんを殴り、ゴミ捨て場へ走り、袋を手当たり次第に破りました。
彼女は外から見えないように布に包まれて捨てられていました。
私は彼女を優しく抱いて帰り、お風呂で念入りに洗ってあげました。
それ以来お姉ちゃんとは口をきいていません。

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