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昔の16

小説の中の話です




美容院からの帰り道。
今日はなかなかうまく切ってもらえました。
自然と足取りも軽くなります。

びゅうっ!
あっ、帽子が!

どうしよう、木に引っ掛かってしまいました。
あんな高いところ、手は届きません。
こんな服装じゃ登れないし…

困りました。あの帽子は、大切なものなのです。
先代が家を離れるとき、この帽子を私に遺して行ってくれたのです。
あの帽子が無いと、家に帰れません。

うーん、どうしたものか…
木をゆすってみようか。

げしげし。

だめだ、全然揺れない。
こんな太い木じゃ仕方ないか。

物を投げて落とそうか?
でも硬い物を当てて帽子に傷がついたりしちゃいけないし。
あ、そういえば!…あったあった。
おやつを持ってきてたんだ。この前山から採ってきたやつだ。
食べ物を粗末にしちゃいけないけど、背に腹は代えられません。
きっと猫とかが食べてくれます。

あったるかなー?えいっ!

あらら、帽子の上に乗ってしまいました。
もうおやつはありません。困りました。

ん?何かの気配を感じます。

「あっ、エスタ!ちょうどいいところに!あの帽子とってくれない?」

聞いているのかいないのか、エスタは返事もしないでするすると木を登ってゆきます。
そして帽子に近づき、私が投げたおやつを取りました。

パサッ…
キャッチ!

「ありがとーエスター!それあげるねー!」
良かった良かった。世の中予想外にうまくいくもんです。
あたしも幸せ、エスタも幸せ、と。

ん、エスタも幸せ…?

…危ない!エスタ!
両手を伸ばした。
走った。
走った。
倒れる!
右足を思いっきり前に出して、体を支える。
視界にエスタが入った。
手を伸ばす。
手の中にエスタが入り…
その衝撃で、体が急激に前のめりになる。
体をひねり、横向きに転がる。
エスタは腕の中だ。
痛い。
良かった、無事だった。
エスタは失神していた。

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