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昔の76

私と私




私は変われるだろうか。


包丁を持った少女が歩いてくる。
少しずつ、私と彼女の距離が縮まる。

私の真上には、消えかけた街灯。
コンクリートの地面が、パチパチとせわしなく点滅する。

空を覆い隠すのは、重い色の水蒸気。
月の光も、星の輝きも、すべてを遮断する黒い灰。

「危うい均衡の上で成り立っているように見えて、
 実は少しも動いていない。
 これを動かすには、大きな衝撃が必要なの。」
「あなたは私なのね?」
「違うわ。
 あなたは私だけど、私はあなたじゃない。
 あなたを殺して、私は生まれ変わる。」
「あなたはだあれ?」
「私は私。
 これまでの私とは違う、新しい私。
 しっかり者で、素直で、明るくて、優しい、私。」
「あはははっ!
 なにそれ!あなたなんにも分かってないのね!
 それはすでに私じゃないわ!人ですらない!
 断言するわ!
 あなたに私は殺せない!!」
「へえ、それじゃ……やってみましょうか。」

風のように彼女が迫ってきた。
一気に間合いが詰まる。
振り上げて、素早く突き出された包丁の先に、私はいない。
私は彼女から数十メートル離れた樹の枝に座っていた。
その瞬間、銃声が鳴り響いた。
真っ直ぐ、私の心臓の中心を、銃弾が通過する。
ドクドクと、生暖かい液体が胸から溢れてくる。
私は地面に叩きつけられた。

「全く、この程度でよくあんな口がきけたものね。
 あなたの居場所は気配ですぐわかるのよ。
 ま、いまさら言ったって聞こえないか。」
「どうして………?」
「ん?」

ゆっくりと、左手を胸に、右手を地面に当て、力を込める。

「私も、あなたの一部なのよ……?
 どうして、私を殺そうとするの……?
 どうして私を痛めつけるの……?」
「お前、なんで……」

膝をつき、右腕を伸ばす。
左足をしっかりと地面につけ、一気に立ち上がる。

「私はこんなに、あなたが好きなのに!
 ずっと、あなたと一緒だと思ってたのに!」
「なんで立てるんだよ!?心臓を撃ったはずだぞ!?」


血はもう止まっていた。

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