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昔の157

名前を呼ぶ子




久し振りだね。
会いたかったよ。心から。
なんて、嘘っぽいかな。
私はずっとここにいて、
あなたが来てくれないから時間は止まったままで、
ねえ、あなたしかいないんだよ。
ずっとずっと、ここにはあなたしかいないんだよ。

風に揺れる金と緑の穂。
私はここに立っていて。
聴こえない音の中にいて。
腕から指の先まで滑らかに伸ばして。
息をすることも知らずに。
貴方をずっと待っていたんだよ。

友達ができたんだよ。
紹介するね。

えっと、どんな子だっけ。
忘れちゃった。
足りない子ばっかりで。
みんな、どこかおかしくてさ。

「ソラちゃん。」

白くて、透明で、すぐ見失ってしまいそうな、
禁忌に触れたことなんて一度も無いように真っ直ぐ立っている、
そう、あの子が最初の友達だった。

「ソラちゃん。」

名前も知らない子が、私の袖を掴んでくる。
うつむいて、体を寄せてくる。
私は思う。
この子が一番、圧倒的に、足りてない子なんだと。

「ソラちゃん。」

私の名前を呼んでいる。
出会った時からずっと、この子は私の名前を呼び続けている。
ねえ、あなたは何を求めているの。
あなたは誰を待っているの。
私は、誰でもないのに。

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