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昔の127

不登校だから夜に出る




食事の時間は嫌いだ。
重苦しい空気の中で、ひたすらものを喉に押しこむ。

「今日も学校行かなかったのか」
お父さんのその一言に心臓がキュッと絞られる。
体が遠く感じて、うまく動かせない。
声を出そうと思っても喉から空気が出ない。

私は小さく頷いた。

「いつになったら行く気なんだ」
私はうつむく。
今までにも何度も聞いてきた質問。
でも私が答えられることはなかった。
私は毎回必死に答えを考えながら、
泣き出しそうになるのをこらえていた。
お父さんはわざとらしく溜息を付いた。

「お前は何がしたいんだ」
顔がとても熱い。
情けなさと惨めさでもう頭がいっぱいで、
何も考えられない。
ごめんなさい、ごめんなさいと
心の中で繰り返すだけだった。

お母さんは何も言わない。
こっちを見向きもせずに黙々と箸を動かしている。
お母さんは私の味方をすることは決して無かったけど、
かといってお父さんの味方をすることも稀だった。

私にはそれが有り難かった。

よくいじめで一番辛いのは無視されることだと言うけど、
私は悪意を持って何かされる方が絶対辛いと思う。
無視されるのが一番辛いって言う子は、
本来なら普通に友達ができる子なんだと思う。
ただ2,3の間違いが重なってしまっただけの運の悪い子で、
その子自体には何も問題はないんだろう。
私みたいにいじめられるべくしていじめられるような
性格じゃないんだ。

私は無視されるとむしろホッとする。
私も相手を無視できる口実ができるからだ。
出来ることならみんな私を無視して欲しかった。



真っ暗な部屋で、窓を開けて外を見ていた。
今日は新月だ。
うちは坂の上にあって、私の部屋からは数百軒の家が見える。
街の光はまばらだった。
そんなに都会というわけでもない、
でも生活に不便はないという程度の規模の街だ。
こんな深夜にもなると人の気配は無くなる。

隣の部屋からも音がしなくなった。
私はそっとドアを開け、音を立てないように、でも急ぎながら
階段を降りた。
私がこうやって夜中に家を抜けだしていることは
お父さんもお母さんも知っているはずだったけど、
でもやっぱり抜けだしているところを見られたくはなかった。
玄関で靴を履き、ドアを開けた。
鍵は掛かっていなかった。

坂と反対側の細い道を少し行くと、大きな自然公園に出る。
森のように木が覆い茂る公園の一番奥には立派な神社がある。
電灯が茂みの外から境内を照らすように立っていて、
暗い林の中に神社だけが輝いている。
その西側の茂みの中には休憩用のベンチとほんの小さな
芝生があるのだけど、なにしろ茂みの中だし、
そこに繋がる道もないので普通はまず気付かない。
私も2週間ぐらい公園に通ってようやく気付いたくらいだ。
といっても私はいつも深夜に来ていたので余計に気付き辛かった
というのもあっただろう。
見つけてからはそのちょっとした秘密の場所のような趣が
すっかり気に入って、私は毎日ここに通っている。
ベンチに座って静かな神社をずっと眺めている。
ひょっとしたら、毎日こうやってお参りをしていたら
神様が私を憐れんでくれるかもなんて思いもあったかもしれない。
でもそれよりも、私はここの雰囲気が純粋に好きだった。
ここで人に見つかったことは今まで一度もない。
人を見たことすら数えるくらいしかない。
ここが私にとって一番落ち着ける場所だった。



黄色い光。
時計。
カーテン。
壁。
辛い。
嫌だ。
気持ちいい。



目が覚めたんだと思った。
何度か起きて寝てを繰り返した気がする。
私が戻ってきているのを感じた。

もうお昼を過ぎていた。
台所へ行ってパンを食べた。
一日二食の生活をずっと続けているので
身体はどんどん痩せていた。
でもそれは気にならなかった。

お父さんは会社に行っていて、
お母さんはたぶん部屋にいるはずだ。
私が起きてきているのも気付いてるだろう。
そんなことはなんとも思ってないんだろう。

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