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昔の32

終わった世界




僕は空を見上げた。
なんてすがすがしい朝だろう。
これまで、こんなに穏やかな気持ちになったことは無かった。
空気を胸いっぱいに吸い込み、吐き出した。
生きている、という実感は無かった。
もうそんな事には意味が無いように思った。
全ての言葉はすっかりこの世から消えてしまったのだった。
僕にはそれが嬉しかった。

いままで歩いたことのなかった道を歩いた。
太陽の光が池の水面に反射していた。
風に吹かれて綿毛が飛んでいた。
出会った人皆に挨拶をした。
誰も返してはくれなかったが、それでよかった。
もうすぐ、人の姿を見ることもなくなるだろう。
コンクリートの割れ目から、ひっそりと若葉が顔を出していた。


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