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昔の111

現実へ帰る




きっと人間には現実に生きる人と理想に生きる人がいて、
私はどうしようもなく理想に生きる人なのだ。
そもそも生きている世界が違うのだから、会話が成り立つはずもない。
こんな私が何を話せばいい?

私にとって現実は現実味のない場所だった。
目の前で何が起こっていてもどこか遠いところの事のように感じていた。
誰と話していても確かな手応えを感じることはなかった。
傍から見れば、私はいつもぼんやりしているように見えただろう。

状況を理解しては居るつもりだった。
でも「理解」という言葉を使っている時点でそれは
感覚から遠く離れたところに在ることを意味していた。
直観的に私はここにいないと感じていた。
どこか遠くから私はみんなを眺めていた。

その前提は今や壊れた。
妄想に呑み込まれて、理想と現実の距離がゼロになって、初めて分かる。
偽物の世界なんて一つもない。
どれもみんな本当で、真剣な世界なのだ。
少なくとも綻びが見つかるまでは。
そうなれば、また新しい世界に遷り変わるだけなのだけど。

元いた世界が懐かしい。
それを「現実」と呼んでしまうのにはまだ抵抗があったけど、
それでもあの世界がたまらなく愛おしく感じてくる。
色んなことをしてみたい。
まだまだ試したいことがたくさんあった。

そしてそれと同じくらい、この世界も愛おしい。
ここは私の世界だけど、そのすべてを知っているわけじゃない。
いや、本当はきっと何も知らないんだ。
根拠もなく自分のものだからわかってるはずだと思い込んでいただけなのだろう。
まだ試したいこともたくさんある。
でもとりあえずは元の世界との繋がりを取り戻さないといけない。
世界は独りじゃいられない。

どの世界にも平等に価値があって、互いに互いを求め合っている。
孤立した世界は狂い始める。
空回りして、自己矛盾を起こして、やがては死んでしまう。
世界はいつも頼りない。

あなたが私のもとに帰ってくる。
その瞳は嬉しさで満ちていた。

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