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昔の88

異界はすぐ隣にあるよ




かつて、世界は神秘に満ち溢れていた。
誰も見たことのない生物。
誰も聞いたことのない音。
誰も行ったことのない場所。
不可思議な超常現象。
決して手の届くことのない空の果て。

それが今はどうだろう。
もはやこの地球上に、人間が立ったことのない場所はない。
それどころか、もはや家に居ながら、世界中の様子を隈なく調べ尽くすことができるのだ。
まったく浪漫も情緒もあったものではない。

私が求めているのは、まだ誰も経験したことのないような魅惑的な冒険。
それにふさわしい舞台は、もうこの星には存在しない。
そうだ、宇宙へ行こう。

とは言っても、そんなお金があるわけでもなし。
やはりこの案は現実的ではない。
ロマンを求める冒険に現実味を求めるという、なんとも矛盾した思考をしてしまう
自分の平凡な脳が恨めしいが、仕方のない事だ。

もっと現実に歩み寄った夢を。
日常と幻想の境界線上を目指して。
三十分間考え続けて、ついに私は怜悧たる名案を思いついた。

そうだ、まだこの世界中の誰も行ったことのない場所があったじゃないか。
誰も見たことのない場所が、こんなにも近くにあるじゃないか。
交通費はいらない。時間もかからない。
この部屋からたった数歩歩くだけで到達できる、でもまだ誰も知らない場所。

窓を開け、空を見上げる。
数カ月ぶりに見た太陽は、相変わらず小さかった。

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