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昔の55

54の続き
コメディです




「ぷっぷー電車が通りまーす
 きけんですから白線まで下がっておまちくださーい」
おばさんが話しかける。
「あらじーちゃん、おめでとう。」
「おめでとうございます。」
「ぷっぷー」
青年が話しかける。
「よーあけおめー」
「だまれ!しずかにしろ!」
「……」
街から人通りが消えた。
満月は薄黒い雲に覆われ、かろうじて僅かな光で彼らを照らしていた。
「しんねんのよていを立てようと思う。」
「それはいいですね。俺も今年はちょっと考えてることが…」
「お前の話なんかどうでもいい!」
「すいません」
「ちょっとこい」
少女は青年の手を取ると、不意に駆けだした。
青年も何も言わずについていく。
静止した街の中を二つの影だけが駆け抜けてゆく。
街を抜け、林に入り、林を抜け、丘を越えた先に広がっていたのは、
全てを飲みこんでしまいそうな程、黒く深く広大な海だった。
「こんなところがあったのか……」
「……」
少女は青年の手を放すと、彼と月に背を向け、後ろで手を組み、
しばらく考え込むように下を向いていたが、やがて静かに話し始めた。
「海って素敵ね……」
「どうして?」
「だって…」
月光に照らされた彼女の横顔は、いつもより大人びて見えた。
「こんなにも光に溢れている……」
青年はぎょっとして海を見た。
闇にしか見えなかったそれは、しかし今では、眩しいくらいの光の塊だった。
キラキラと押し寄せる金色の光の波は、刻一刻とその表情を変えながら、
世界と青年と少女を優しく包み込んでいた。
「これは…月の光……?」
「いいえ、それだけじゃないわ。私の、最後の力よ。」
「おいっ、お前まさかっ!」
「最後に、あなたと見たかったの。この海を。ねぇ覚えてる?私たち…」
「やめろっ!!」
青年が少女の肩をつかんだ。
「こんなことしたら、お前は…!」
「いまさらどうしようもないのよ。もうすぐ私は完全に……」
「やめろって言ってるだろ!」



「……ってのを考えてみたんだけど、どうだろう?」
「きもい…早くわたしのにんしきから消えて下さい…できればきおくもけしたい」
「まあまあそう言わずにやってみてよ……じゃあ俺から言うから
 『よーあけおめー』」
「しね!きえろ!」
「……」
「……」
「……」
「え?」
「?」
「なに」
「続きは?」
「いややってねーし!」
「えっそうなの?アドリブ入れてきたのかと思った―。」
「ぜんぜんちがうかっただろ」

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