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昔の156

魔法少女




魔法少女、ってご存じですか?
ほら、最近アニメとかでよくやってる。
不思議な力で敵をやっつける女の子です。
かっこいいですよね。
私も昔は憧れたものです。
変身ポーズを真似したり、魔法の杖を買ってもらったり。
それがどうしたの、ですか?
実は私、魔法少女の友達なんです。


「なんでわたしがこんなダサいことやらなきゃいけないのよ」
セリちゃんは腕を組んで大威張りで言いました。
「だってセリちゃんにしかできないんだから」
「だからなんでわたしなのよ、あーあ早く帰ってケーキ食べたい」
「あ、あのさセリちゃん……」
私はポシェットからラッピングした小包を取り出しました。
「頑張ったらお腹が空くだろうと思って、これ作ってきたんだ」
「な、なによ、そんな気を遣わなくていいのにっ……///」
セリちゃんは少し顔を赤らめながら包みを開けました。
「もうっ、さーさったら真面目すぎるんだから……///
 どんだけわたしのことが好きなのよ……///
 ……は?」
セリちゃんは包みからうどんを摘み上げて不思議そうにしました。
「なに、これ」
「ソバだよ」
「いやうどんでしょ!?どうみたって!!!なんでうどんなの!?」
「セリちゃんうどん好きって言ってたから」
「好きだけど麺だけ持ってこられても困るよ!?
 つゆは!?具は!!???」
「逆に訊くけど、つゆを持ってたらこの場で食べたの?」
「食べないけど!!!なんでそんな偉そうなの!?」
「せっかく作ってきてあげたのに……」
「べっ、べつに感謝してないわけじゃないんだからね!!!」
そんな戯れを楽しみながら私達は夜の道を帰りました。
セリちゃんはこんな子です。


「神さま神さま、どうか私の願いを聞いてください」
「よかろう。なんでも聞いてやるぞよ」
「私も魔法少女になりたいです」
「それは無理じゃな」
「どうしてですか」
「DNAの塩基配列が特定のパターンでないとなれないのじゃ」
「そんな、不公平です」
「不公平じゃ、不公平じゃ。
 じゃが、どうして公平でないといけない?
 どうして公平だと思ったのじゃ?
 自然はいつだって不公平なものじゃろう」
「それは」
「それは、そう、人間だけが公平だからじゃ」
「私達だけが、公平」
「人間だけが、皆に平等であろうとするからじゃ
 人間だけが、偏りを、歪みを、間違いを、正そうとするからじゃ。
 人間だけが、自然の法則に逆らえるのじゃ。
 エントロピーを減少させる事ができるのじゃ」
「セリちゃん、何を言ってるの?」
「べっ、べつに、理科の先生の受け売りなんだからねっ!!!」
セリちゃんはこういう子です。


この世には、たくさんの魔法少女がいます。
人を明るくする魔法少女がいます。
便利な道具を作る魔法少女がいます。
素敵な絵を描く魔法少女がいます。
自由な音楽を奏でる魔法少女がいます。
深遠な哲学を考え続ける魔法少女がいます。
恋を紡ぐ魔法少女がいます。
そして、もっとたくさんの、何の取り柄もない少女がいます。
何もしない少女がいます。美しくも、興味深くもない少女がいます。
私達は、かつて魔法少女に憧れた少女でした。
だけど、魔法が解けてしまった少女でした。
私は、セリちゃんのそばにいます。
セリちゃんの強がりを知っています。
セリちゃんが本当は誰より大変なことを、
誰より真面目なことを、知っています。
セリちゃんが素直じゃないことを知っています。
その歪みが、嘘が、苦しみが、セリちゃんの魔法なんだってことを。
外の歪みを、全部自分の中に引き受けていることを。
だから、セリちゃんは、いつもあんなに平気そうで。
本当は、いつも壊れる寸前のくせに。
魔法少女は、そういう子達です。

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