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昔の116

独りと痛み




私には何も見えなかった。
いつも暗闇の中にいるようだった。
痛みだけが私に語りかけてくる。
その他には誰も居ない。

先へ進めば視界が開けると信じていた。
誰かと話せると信じていた。
僅かな光を頼りに歩いた。

もう足を踏み出す力も残っていない。
倒れこんで、口を開けて、
落ちてくる雨粒を受け止めた。
霧は深く深く、暗く暗く、私を囲む。

「これが現実だよ」と
首が痛む。

「お前はずっと独りだよ」と
顔が痛む。

私の側にはずっと痛みだけがあった。
小さい頃は疎ましかった。
どうして私だけ、と思ったこともあった。

今ではこの痛みこそ愛おしい。
痛みだけが私に語りかけてくれる。
痛みだけが私を繋ぎ留めてくれる。
私にとっては痛みだけが確かなもので、
私が私である証拠だった。

ずっと一緒にいよう。
信頼に足る光が見つかるまで。
いや、見つかったその後も、ずっと。

このあやふやな景色が全て幻だったとしても、
この痛みだけは本物だから。

高い高い葉っぱから雫が落ちて、額で弾ける。
鬱蒼とした森の中、ちょうど私の真上だけが
落とし穴みたいにぽっかりと開いている。
そこから見えるのは、プラネタリウムのように
はっきりとした、近すぎる星空。
初めて見る確かな光から私は目を逸らせない。
雨は滑らかに私を天上へ運んでいく。

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