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昔の87

こういうノリ久しぶりに来たね




「難しく考え過ぎなんだよ、もっと気楽に構えればいいの。」
「じゃああんたがやって見せてよ」
「いいよ。このぐらいどってことないんだから」

高野山の頂上にあるバッティングセンター。
国土地理院の陰謀によって地図には載っていない。
だからここは、知る人ぞ知る絶好の穴場なのだ。
空気が薄いので球がよく飛ぶと評判である。
周囲にネットもないので、思い切り打てばさぞ爽快な打球となるだろう。
打てれば、の話だ。

「ほらいくよー、よく見てなよ―」
「見てるからよそ見しないでちゃんと打ってよ」
「分かってるって」

きっと奴のことだ、苦もなく打ってしまうのだろう。
常に、およそありうる限りの最善の結果を出す。
それが奴の決まったやり方だった。
あるいはこれまでの結果は全て偶然だったのかもしれない。
だとしても彼女の運を引き寄せる力を実証しているだけなのだが。

結果を確信してはいても、それでも尚何処かに期待してしまう。
そして球が撃ちだされた瞬間、目を閉じて――

遠く高らかに響いたバットの音が耳に届くよりも先に、私は気を失った。

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