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昔の86

花の泉の向こう側




勝てない。
私はあの人には絶対に勝てないと、最初に気付いたのはいつだっただろう。
今でもあの人は翼を盾にして眠っているのだ。
私にそれを責められるはずもなく。
花蜜の匂いが私の力を奪っていった。

彼女は生まれながらに無垢だった。
ただそれだけで、私は彼女に勝てないのだ。
どれだけ気を遣おうと、どれだけ努力しようと、
意識しないことは意識的にできないのだ。
彼女は最初からゴールに立っているようなものだった。

ずるいと思わないと云えば嘘になる。
でも。
そんなこともどうでもいいと思えるくらい、綺麗だった。
光の粒が滑らかな水面に反射する。
新しい水飴のように透き通った泉の水は、仄かに暖かかった。
ここはいつでも穏やかなのだろう。

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