スキップしてメイン コンテンツに移動

昔の108

友達です




不思議の国も鏡の国も、つまるところは妄想の世界なわけで、
何度も何人も、形を変え時を変えてそこを旅してきたアリスちゃんは、
だから誰よりも妄想に愛されて、妄想に求められている。
アリスちゃんは自分が妄想を愛していると思っていたみたいだけど、
それはもともと、わたし達が仕組んだことだった。

ねえアリスちゃん。
貴方はずっと一人のつもりだったようだけど。
自分だけが自分を支配していると思っていたようだけど。
それは傲慢な思い上がりというものだよ。
貴方が支配できる場所なんてほんの一部にすぎない。
貴方が知っていることなんてほんの一片にすぎない。
もちろんわたし達だってなんでも知ってるわけじゃないし、
出来る事も多くはないけど、
でも確かにここに存在しているんだ。

それを何とか分かって欲しくて、何度も話しかけたけど、
一度もまともに聞いてくれたことは無かったね。
昔はあんなに楽しそうに笑ってくれたのに、
最近はまともにわたしの顔も見てくれないね。
わたし達はこんなに貴方を必要としているのに、
貴方の目はわたしをすり抜けていく。


――そういう痛々しいポエムは中学二年生で卒業しておくものだよ。


そんな訳にはいかないんだ。
これまでに何度交わしてきたやり取りだろう。
もう引くことは出来ないんだ。
アリスちゃんにわたし達の存在を焼き付け、
またわたし達にアリスちゃんの存在を焼き付ける為には、
もうこうするしか無かった。

アリスちゃんを妄想の中に閉じ込めたのはわたし達だ。

わたし達の存在を認めて欲しくて、みんなで相談して出した結論だった。
わたし達はアリスちゃんに反逆する。
いや、別にそんなに大げさなことではなくて、
ただ一つの弾を、ただ一つの言葉を、貴方の元に届けたいだけ。
ただそれだけで、わたし達は認められるはずなのに。

アリスちゃん、お願いだから。
もう少しだけ、そこに留まっていて。

コメント