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昔の67

成長してない




透き通った月光が、私たちを静かに包んだ。


「ブログを書いてるんだ。」
 「ブログ?へえ、どんなこと書いてるの?」
「例えば、こんなのとか……」
 「ふむ……」
「あと、こんなのとか……」
 「へえ……」
「どう?」
 「意味分かんない。
  何が言いたいのかさっぱり分かんない話だね。」
「うん。そうだと思う。
 もともと、分かってもらおうと思って書いてないから。」
 「え?じゃあ何で書いてるの?」
「自分に自信が持てないんだ……
 だから、何か形のあるものを残して、安心したいんだ。」
 「そんなので安心できるの?」
「できない。だから、もっと書かなきゃいけないんだ……」
 「どうしてそれをブログに載せようと思ったの?
  こんなの公開してどうするの?
  読む人の時間を無駄に奪って、申し訳ないと思わないの?」
「公開した方がモチベーションが続くからそうしてる。
 読んでくれた人には感謝するけど、申し訳ないとは思わない。」
 「なんで?」
「これは私の為だから。他の誰の為に書いてるわけでもない。」
 「……だからダメなんだろうね……」
「そうだね……」


ごおっ、という轟音とともに、冷たい空気が一気に下界へ吸い込まれていく。
その凍気に、無数の星々が震えている。
わたしはコートを強く引っ張り、前屈みに丸くなった。
コンクリートの床は、意外と冷たくない。
目の前を、灰色の積乱雲が高速で通り抜けていく。
三日月は突然その鋭さを増し、まるで氷柱のように私たちに降り注いだ。


「みんなは、どこにいるのかな……」
 「…………」
「下かな、それとも、上かな……」
 「私には、何も無いんだ……」
「風が凄いね……掃除機に吸われるゴミの気分がちょっと分かる気がする」
 「あなたみたいに、自分の為に何かやってるわけでもない。
  もちろん、他人の為に何かやってるわけでもない。
  私は、本当に、何もやって無いんだ……」
「あの雲の向こうには、何があるのかな……
 ねえ、行ってみたいと思わない?」
 「私に比べたら、あなたは上出来だよ……
  人間として、ね。」
「明けない夜は無いって言うのは嘘ですよ。
 ねえ、ずっと夜でいる方法、分かりますか?」
 「でも、それじゃあ私は何のために生きてるんだろうね。
  他人の為に生きられない、自分の為にすら生きられない人は、
  一体何のために生きればいいの?」
「宙に浮くのです。
 地上を離れ、自転に逆らい、ずっと地球の裏側にいるのです。」


硬く、無機質なコンクリートでできた、二人だけの要塞。
その周りには常に冷たく激しい風が吹き荒れている。
来るべき未来に抗い、ひたすらに風を裂く者たちを、月は静かに眺めていた。

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