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昔の28

わがままなお嬢様と慇懃な執事




「あーもう!ねむいねむいねむい!ねーむーいー!」
「お嬢様、そんなにはしゃいでは寝られるものも寝られません。もう少し静かにしてください。」
「そんなこといったってねー、ねむくないんだもん!あんた執事だったら私を寝かせてよ!」
「それは無理でございます、お嬢様。」
「あとね、お嬢様って呼ぶのはやめてって言ってるでしょ!もう私は大人なんだから!」
「では何とお呼びすればよろしいのでしょう。」
「お姫様って呼びなさい。」
「お姫様。」
「なに?」
「早く寝て下さい。」
「もうさっきからそればっかり!私は寝れないの!寝ろって言われて寝れるもんじゃないでしょ?わかったら、絵本でも読んでよ!」
「お姫様、大人は絵本を読んでもらったりしません。」
「私はまだ子供よ?見て分からないの?」
「分かりました。何をお読みしましょうか?」
「『たんたのたんけん』。」
「かしこまりました。」

執事は絵本を読んで聞かせた。
一冊読み終わると、すぐに姫は次の本を読むよう命じた。
何冊何冊読んでも姫は眠らなかった。

「あーもー、絵本あきた!あきたあきたあきた!」
「ではお嬢様、そろそろお休みになられてはいかがでしょうか。」
「だっかっらっ、私は眠くないんだってば!もう、なんで寝ないといけないのかしら。」
「夜だからですよ。」
「……!!!それよ!」

姫はビシッと人差し指を執事に向けた。

「お嬢様、人に向かって指をさしてはいけません。」
「夜だから寝なきゃいけないのよ!なんでこんなことに気づかなかったのかしら!」
「と、おっしゃいますと?」

一応質問してはみたものの、執事には次に姫が何を言い出すのかという見当は付いていた。
また姫お得意のわがままである。

「夜をなくせばいいのよ!そうすれば寝なくてすむわ!」
「お嬢様…」
「ほら早く手配しなさい!夜をなくすのよ!」
「…かしこまりました。」

姫の命令は絶対なのだ。
提案ぐらいならできるが、彼女の決心はもう揺るがないだろう。

「あとお姫さまって呼びなさいって言ったでしょ?」
「すみません、お姫さま。」

そういうわけで、A国では夜が無くなった。
これはある村人と村人の会話である。

「また国からの指令だ。今度は夜をなくせだとよ。」
「なんだそれは。夜をなくせったって、無理に決まってるだろ。」
「夜でも昼と同じように暮せということらしい。」
「おいおい、一日中働けって言うのか?ひどいな。」
「俺の店も一日中開けておくことになった。ずっと起きてるわけにもいかないから、バイトを雇わないといけねえ。」

これがコンビニの起源である。


「お嬢様、お嬢様、朝でございます。お目覚めください。」
「う~ん……ねむいのー…もうちょっと寝させて……」
「夜更かしなさるからですよ。」
「あんたはねむくないの…?あんただってずっと起きてたくせに……」
「私は一日一時間眠れば大丈夫です。そんなことより、早くお目覚めになってください。公務の時間が近いですよ。」
「もう~……なんで起きないといけないのよ~」
「朝だからですよ。」
「朝をなくしてよぅ。」
「朝をなくしても、昼には起きないといけませんよ?」
「じゃあ昼もなくしてー」
「そんなことすると、もう何も無くなっちゃいますよ。」
「うーうーうー……ねーむーいーねーむーいー。」
「しょうがないですね。押しますよ。」

執事は姫の背中にある赤いボタンを押した。
姫の身体は白く輝き、部屋の中には風が吹き荒れた。
カーペットがめくれ、本が飛び、シャンデリアが揺れた。
姫は完全に光に包まれ、直視できなくなった。

これはある鳥の独り言である。

「うわー。まぶしいー。なんだこれー。まぶしいーまぶしいよー。にげろー。うん?あれ?なんか変だな?景色が変だぞ?よく見えない」

これが鳥目の起源である。


光が消えたとき、そこにはきれいなドレスやアクセサリーで身を飾った姫がいた。

「さあお嬢様、お食事にしましょう。」
「ちょっと執事!あれはやめてって言ってるでしょ!」
「しかしそうしないとお嬢様はお目覚めにならなかったでしょう」
「あれ恥ずかしいんだけど」
「押しますね」

執事は姫の額にある青いボタンを押した。
ピンポーンという音が屋敷中に鳴り響いた。
すぐにメイドがやってきて、朝食を置いて行った。

「このボタン私についてる意味あるの?」
姫は不服そうである。
「ありますよ。」
「なに?」
「かっこいいじゃないですか。」
「は!?はずせよ!」
「お嬢様、もっと上品な言葉遣いでお話し下さい。」
「はずしてくださいまし」
「だめです」
「なんでよー!」
「お嬢様、朝食が冷めてしまいます。早くお召し上がりください。」
「あっ、はなしそらそうとしてるー!」
「今朝のお食事はフランスパン、かぼちゃスープ、ヨーグルトでございます。」
「えっかぼちゃスープ?やったぁ!いただきまーす!」

姫は上機嫌でスープを掬い、ずずずずずっと吸い込んだ。

「あーおいしー!えへへ~やっぱ朝はかぼちゃスープね~」
「お嬢様、スープは音を立てずに飲んでください。」
「私毎日かぼちゃスープがいいなぁー。あっ、もうこんな時間!執事、テレビつけて!」
「かしこまりました。」

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