昔の７４

解ける




足を一歩踏み出す。
そこには確かにあった。
私の足を押し返してくるもの。
右足を踏み出せば、右足が受け止められ、
左足を踏み出せば、左足がそれに触れる。
わたしにとって、それが現実だった。
それが当然だった。
しかし、彼女は違った。

彼女は地に足を付けずに歩くことができた。
何物からも力を受けずに動くことができた。
彼女は言った。
「全ては思い込みなのよ」



彼女は月まで散歩に行けた。
私に土産話を聞かせてくれた。
「地球は青くなんてなかったし、丸くもなかったわ。
　私たちは一枚の白い板の上に乗っているの。
　今度あなたにも見せてあげる。」

その時は来なかった。



「私も連れて行ってよ！
　連れて行ってくれるって言ったじゃない！」
「ごめんなさい。
　もうここにはいられないの。
　第二カルトル分子はもうこの時空軸で安定性を保てない。
　あなたも連れていきたかったのだけど、
　あなたはあまりにも重すぎた。」
「待って！
　どこへ行くのよ！
　どうやって！？
　この現実から、どうやって抜け出すっていうの！？」
「簡単なこと。
　ただ、捨てるだけ……
　あなたを縛り付ける、思い込みを」
「リナ!！!！－---……」

そして彼女は、
私の手の届かない、遠い遠いところへ行った。