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昔の19

詩を書きたかったけどまだ照れがあった頃




あなたの心を取ろうとして
あなたの身体を開いたら
あなたはどこかへ逃げてった



・・・・・・

「ぷっ。何これ。」
私はとても嫌な予感がして、読んでいたマンガから顔をあげた。
エスタが読んでいたのは私が詩を書いていたノートだった。
「…!っちょ!何勝手に読んでんの!」
私は可及的速やかにノートを奪い取り、エスタを睨みつけた。
しかしエスタは悪びれる風でもなく、へらへら笑ってこう言った。
「ねえねえなんなのあれ?マーサが書いたの?どういう意味?」
「…えっ?何のことかな?これ国語のノートなんだけど…」
「じゃあなんでさっきあんな慌ててたの?」
「いや、えっと…あっ!そういえば冷蔵庫にプリンが」
「あなたのこころをとろうとして…」
「あっ、アイスもあったなー!イチゴアイスがあったなー!」
「あなたのからだをひらいたら…」
「実はどら焼きも隠してたんだよね!!ほら、あんた大好きでしょ!?どら焼き!」
「こころはどこかへ「あなたは、でしょ「覚えてるんだ?「そりゃ自分で…あっ」

にやっ、とエスタが笑った。

「自分で書いたんでしょ?」
「あー、いや、その…あー、うーー……そうだよ!私が書いたんだよ!」
「プ…で、どういう意味?」
「う、……」

別に意味も何もあったもんじゃない。
ただなんとなく頭に浮かんだことを書いただけなのだ。

えーい、適当にごまかしてやれ!

「そこまで言うなら教えてあげるけど…すごく複雑だよ?エスタに理解できるかなー?」
「いいから話して。」
「うん、あのね、桜の花はどうして綺麗なんだと思う?それはね、すぐに散ってしまうからなんだよ。
儚いものだからこそ、美しいし、価値があるんだよ。
もし桜の花がずっと咲いてたらどうだろう?
それを見ても、誰も美しいとは思わないだろうね。道端の雑草と同じようなものだ。
人の心っていうのはそういうものなんだよ。
ここで、お金について考えてみよう。
誰もお金を欲しいと思う。当然だよね。生きるために必要なんだから。
ところが、露骨にお金を欲しがると、世間の人は嫌な顔をする。
これはどういうことだろう。
生きたいと思うのは悪いことなんだろうか?
豊かな暮らしをしたいと思うのは悪いことなんだろうか?
この問いに答えるには、そもそも悪いってのはどういうことなのか考えないといけない。
嘘をつくのは悪い?
人のものを盗むのは悪い?
人を殺すのは悪い?
本当はどうか分からないけど、一般的にこれらはみんな悪いことだと言われてる。
逆に、善いといわれることもあげてみよう。
努力すること
禁欲すること
人を助けること
まだまだあると思うけどね。まあこんなもんで。
さあ、これらの共通点は何でしょう?

……それがね、この文章の主題なんだ。
つまり、人間というものの本質に迫る、
複雑な回路の奥に潜む善と悪の根本的な原理を浮き彫りにする、
これが、この詩の持つ効果であり、意味であるんだ。」
「嘘だよね」
「うん」

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