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昔の66

春と灰色




風が丘を撫でて走る。
長い髪が絡めとられる。
一番高い丘の上で、流れていく景色を見ている。

タンポポの花がふわふわ揺れる。
オオイヌノフグリがちらちら揺れる。
幸せな光が自然に私を包む。
桜の花びらが雪のように舞い、鮮やかに視界を彩る。

ああ、世界はもう春なのだ。



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どこまでも続く街を見ていた。
古い民家が、広い野菜畑が、高い塔が、たくさんの人が、私の前を通り過ぎていく。
次々に移り変わる街々。

ひっきりなしに吹く甘い風。
桜が踊る。
草も、花も、木の芽も、みんな踊る。
その中で一人、私だけが、じっと座ってそれを見ている。

髪を引かれても。
もたれている桜の木が揺れても。



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灰色の無機質な街の上に、綺麗な色が降ってくる。
緑、黄、青のかけらが一面を漂う。
そして、それらを覆い隠すような圧倒的な桃色が、街を埋め尽くす。

私は空を思い出した。
凝り固まった首を無理矢理に持ち上げる。

久しく見ていなかった空は、想像できないほど青く、眩しく、生気に満ちていた。

私の目は一点に引き寄せられる。
そこには、碧い草々をいっぱいに繁らせ、巨大な桜の木を頂上に生やした、小さな丘があった。


この街のどの山よりも高く、どのビルよりも高い場所に、それは浮かんでいた。


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