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昔の50

すぐメタに走ろうとする




家に着いた。
「ただいまー!」
家中に響くような大きな声で。
「おかえりー。」
これはママの声ね。
声のした方へ走る。
台所だ。
「ただいまっ!何作ってるの?」
甘い良いにおいがあたりに充満している。
「ホットケーキよ。今日のおやつ。」
「やったあ!」
ホットケーキを好きな気持ちならだれにも負けない。
と、思う。
今のところ、負けたことは無い。
「ホットケーキをホットケーキって名付けた人ってすごいよね。
ほんとにホットなケーキだもんね。
他にホットなケーキなんてないもんね。」
「そうかしら。」
「そうでしょ?
 ショートケーキだってチーズケーキだってモンブランだって、
 みんな冷たいじゃない!
 でも、ホットケーキはあったかいのよ!」
「はいはい。まあ、そうかも知れないわね。
 そんなことより、早く宿題してらっしゃい。」
「そんな事って何よ!大発見じゃない!」
ママはそうやってすぐ話を逸らす。
「宿題ができるまで、ホットケーキはお預けよ。」
「えーっ!ひどい!」
「だから早くやってらっしゃい。
 まだ焼けるまでには時間があるから。」
「分かったわよ!やってくるから、私のにはハチミツかけてね!」
駆け足で階段を上る。
でもちょっと怖いから、やっぱり普通に上る。
今日の宿題は算数のプリントと国語の音読だ。
あと日記もあるけど、これは宿題じゃない。
と、思いたい。
ホットケーキ食べたこと書けばいいや。
「ただいま~。」
「りるー!」
部屋に入ると、リルリルが出迎えてくれる。
「りるー!りるりるー!りるー!」
リルリルが触手で手や足をつかんでくる。
「ごめんね、リルリル。
 今日は忙しいの。
 早く宿題をやらないと、アイラブホットケーキが冷めちゃうの。」
「りるー。」
リルリルはしょんぼりと触手を引っ込めた。
代わりにアンテナから、子供にしか聞こえない音波を出した。
「ちょっと、リルリル!うるさいからやめて!」
音波は止んだ。
ほっとした。
プリントを取り出す。
「リルリルも一緒にやる?」
「やらん。」
機嫌を損ねてしまったようだ。
ひげがピンと立っているから分かる。



「ううう……」
私は唸った。
だんだん、苦しくなってきた。
じわじわと、締め付けられるような苦しさ。
動ける範囲が、だんだん狭まって行くのを感じる。
「諦めな。もう手詰まりだよ。」
セラが言う。
「いや、まだどうにか……」
「リルリルが喋ったことで、もうこの話はどうやっても収拾がつかなくなった。
 そもそも、このわけのわからない生物が突然出てきた時点で、
 もともとゲーム開始から30分経ったジェンガのように不安定だった話の筋は
 もはや完全に崩壊してしまった。
 後はその崩れた木片の山をただぐちゃぐちゃとかき回していたにすぎない。」
「そ、そんなことないよー。」
「行き当たりばったりで書くからそういうことになるんだ。
 どれ、私に貸してみなさい。
 見事な文学作品に昇華してあげるから。」
「グゥゥゥゥ・・・・・・」




私が「ただいまー」といい、母が「おかえりー」と言った。
台所で母が私の大好物のホットケーキを作っていた。
私はすぐにでも食べたかったが、母はそれを許さなかった。
宿題が終わるまで食べてはだめだと言うのだ。
私は憤慨しつつも部屋に戻り、算数のプリントを取り出した。
30分後、宿題は終わった。
私はハチミツがけのおいしいホットケーキを食べた。
スイーツ()



「……つまらん……」
「……文学作品って、そういうものよ……」
「それは違う!」

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