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昔の124

まだ言葉がなかった頃






まだ言葉がなかった頃
私たちは一つだった








「だからどんな服着て行こうかなって思うんだけどさ、
 ○○ちゃんはどう思う?」
私の名前を呼ばれた。
何も返す言葉が思いつかない。
「うん…どうかな…」
「こないだのタータンチェックのシャツとか似合ってたよね」
「そうそう、あれに白のチュールスカートとか合わせて…」
金髪の子と茶髪の子。
私と違う色の子。
「そうだねー。ありがとう」



「おいしい?」
「おいしいコポコン」
「そう。良かったわ~」
「おいしいコポコン」
「二回も言わなくていいからね」



私は家の中ではキャラを作っている。
学校にいる時の私が本当の私だ。
と、思う。
でも時間で言えば家の中にいる時のほうが長いのだ。
何を根拠に本当の私を決めてるんだろう。



「じゃあ次、保健委員になりたい人」
私は手を挙げた。
「じゃ、○○さんと△△さんね」
△△ちゃん。
一度も話したことのない子。



「なんで保健委員なんかになったの?」
茶髪の子。
「いや、なんとなく…」
「ふーん…」
本当は他に理由があった気がするけど。
もう忘れてしまった。



「わっちは保健委員になったんだポリロン」
「へぇ~。自分で立候補したの?」
「そうだポリロン」
「なんで保健委員にしたの?」
「みんなを私の可愛さで癒してあげたいからだピンコ!」
「あらあら」



ピンコは失敗だったなと思う。
でも、そう言ってる間少し楽しかったのも事実だ。
学校でもずっとあのキャラを続けていたら。
あれが本当の私ってことになるんだろうか。
だったらもうそれでもいいような気がする。



保健室には△△ちゃんしかいなかった。
ベッドに座って校庭の方を見ている。
これはチャンスかもしれないと思った。
「△△ちゃん、こんにちはだ…」
だピョン、というつもりだった。
△△ちゃんはそっとこっちを見た。
いつもの小さな笑顔のまま私を見た。
そして△△ちゃんは私にキスをした。








まだ言葉がなかった頃
私たちは一つだった

あらゆる境界は存在しなかった
嘘も本当も同じことだった

生きる意味なんて考える必要はなかった
私たちはいつも生きていたのだから

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