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昔の109

友達と姉です




「このままの方が幸せなのかもしれませんね」
ベッドにひっそりと収まっているあいつの寝顔を見つめながら呟いた。
隣に座っていたお姉さんが優しく問いかけてくる。
「誰にとって?」
「あいつにとってです。」
「私はそうは思わないよ」
お姉さんも同じようにあいつの寝顔を見つめながら呟く。
でも、その瞳はわたしよりずっと真剣だった。
わたしは自分に向かって静かに溜息をつく。
「お姉さんは強いですね」
「えっ、そんなことないよ」
驚いたように手を振った後、誰かに怒られたかのように
お姉さんはしゅんと頭を下げた。
「私は自分の考えをこの子に押し付けてるだけなんだよね。
 だからこの子も口を利いてくれなくなったんだって、
 それは分かってるんだけど、他にどうすればいいのか分からなくて」
白いレースのカーテンが陽光をいっぱいに浴びながら揺れている。
晩冬のまだ冷たい風もものともせず、軽やかに軽やかに揺れる。
その隙間から見える空は、この部屋とは別世界のように青い。
「あの子が何を考えているのか分からなかった。
 ずっとこんなに近くに居たのに、馬鹿だよね」
振り向くと、お姉さんはわたしの方を見ていた。
「でも貴方は分かってたんでしょ?
 じゃなきゃこの子の友達なんて務まらないもんね」
今度はわたしが驚いて手を振る番だった。
「友達だなんて、あいつは絶対そんなふうに思ってませんよ。
 一方的に押し付けてるのはわたしの方です。
 ただ、あいつは昔のわたしになんとなく似てたから、
 だからちょっと仲良くなりたくてちょっかい出してただけで……」
言ってしまった後でしまったと思った。
こんな半端な気持ち、お姉さんが知ったらきっと気分を悪くするに違いない。
慌てて隣を見ると、案の定、お姉さんはうなだれていた。
「あっ、あのすいません…でもこれが正…」
「そっか…そっか、そうだったんね……
 敵うわけ無いよ……私なんて……」
お姉さんの頬を涙が伝っているのを見て、わたしは驚いた。
「なんで…」
「馬鹿だなぁ……本当に馬鹿だ……馬鹿だ
 こんなことにも気付かなかったなんて……
 自分のことしか考えてなかった……」
俯いたまま、壊れたスピーカーのようにお姉さんは独り言を続ける。
わたしの声なんてもう耳に入ってないみたいだ。
わたしはまた自分に向かって溜息をつく。
お姉さんの瞳は、やっぱりわたしなんかよりずっと真剣だった。

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