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昔の69

載せようか迷うライン




「たいへんです!たいへんです!」
「ん?どうしたの?」

部室へ駆け込んできたこの子は、後輩の佐々木だ。
そそっかしく、何をやらせてもダメなやつだけど、どういうわけか人には好かれる。
もちろん、私も彼女に対して悪い感情は持っていない。

「わたしのプに子ちゃんがいなくなったんです!」
「プに子って……あのシャーペン?」
「そうです!私の一番のお気に入りです!」

彼女は持ち物に名前を付ける癖がある。
そのシャーペンはアルファゲルでぷにぷにだからプに子らしい。

「どうしましょう!?どこでなくしたのかな!?」
「どこでなくしたかより、いつなくしたか考えれば?
 そのシャーペンを最後に見たのはいつ?」
「えーっと……昨日家で書いてた時はあったし……
 今日は……4時間目に使った時はありました。」
「5時間目は?」
「体育だったんです。
 それで、終わりのホームルームの時に筆箱を見たら、無かったんです。」
「ふーん。4時間目はなんだったの?」
「理科です。理科室でやりました。」
「じゃあそこに置いてきたんじゃない?」
「なるほど……見てきます。」

佐々木は走って部室を出て行った。

「……理科室には、ありません。」

「え?」

声の主は坂井、佐々木と同級生の後輩だ。
窓際の机に一人で座って、小説の続きを書いていた。

「なんで?」
「見てましたから。筆箱に入れるところ。」
「じゃあ教えてあげればいいのに……」
「……」

坂井はまた小説の続きを書き始めてしまった。
どうも坂井は佐々木が苦手なようだ。

「どんな話書いてるの?」

私が覗き込むと、佐々木は原稿用紙をひっくり返してしまった。

「完成するまでは、人に見せない主義なんです。」
「あ、そう……」

坂井は推理小説を書くことが多い。
伏線を張りまくって最後に一気に回収するのが非常に気持ちいい。
私も一度そういうのを書こうとしたけど、めんどくさくなって止めてしまった。
やっぱり書いてて楽しくないと、私はだめだ。

「うわーん!ありませーん!」

佐々木が帰ってきた。やはり無かったようだ。

「ないですよー!どこ行っちゃったんでしょう!?」
「まあまあ落ち着いて。服をばたばたさせない。」
「うー、うー、うー、」
「うーうー言わない。
 理科室を出る時はちゃんと筆箱に入れてたらしいよ。」
「えっ!そうなんですか!?」
「坂井が言ってた。」
「あっ、そうなんですかー。
 さかちゃーん、どこにあるか知らない?」
「情報が足りません。」

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