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昔の45

お嬢様と執事再び
リバイバルブームだったのかな




「ひーつーじー、絵本読んでよー、ひつじー。」
「羊じゃなくて執事です、お嬢様。」
「お嬢様じゃなくてお姫様だってば!」
「失礼しました、お姫様。」
「ねえ、絵本読んで―。これー。」
姫はボロボロの絵本を執事へ差し出した。
「またこの絵本ですか?随分お気に入りなのですね。」
「うん!大好き!これ読んでもらうと、すごくわくわくするんだもん!」
「左様ですか。……ではお読みいたしましょう。」
「うん!早く早く!」
姫は絵本を執事へ渡すとベットの中へ潜り込み、
顔だけを出して執事が読むのを待っていた。
「では読みますよ……。『これは遠くよその国の 遠く古いおとぎ話……


――めでたしめでたし。』」
執事は静かに絵本を閉じた。
「ああ、やっぱりいいなぁー、この話。
小さなお姫様が、たった一人で、愛する人を探して旅に出る……
壁を越え、竜を倒し、幾多の敵を斬り……
そして最後は感動のハッピーエンド!やっぱこれよ!」
「本当にお気に入りなのですね。
お嬢様が一番お気に召したのはどの場面ですか?」
「えっとねえ、かしてかして!」
姫は絵本を執事から受け取ると、ぺらぺらとページをめくった。
「うーんと、あ、ここここ!
お城から遠く離れて、もうお姫様はくたくたなんだけど、
ついに王子様の居場所を突き止めるの!
で、もうあと少しってところで、悪い魔女が出てくるの!
疲れ切ったお姫様は負けちゃいそうになるんだけど、
王子様への想いが光の剣になって、
お姫様はその剣で魔女の心臓を貫くの!
もーうかっこいいよねー!このページが大好きなの!
ああ、私もこんな冒険がしてみたいなー。」
「お嬢様は一人でこの城の敷地から出たこともありませんからね。」
「なによ!わたしだって行こうと思えば一人でどこだって行けるわよ!」
「はいはい。それではお嬢様、おやすみなさい。」
「お姫様だってば!」
執事は部屋から出ていってしまった。
「全く、あいつ私が主人だって分かってるのかしら……
はあ、うーん、冒険、行きたいなぁ…」
姫は月明かりに照らされた絵本を見つめた。
表紙はぼろぼろであったが、そこに描かれたお姫様の笑顔は輝いて見えた。
凍りついたように見えた夜はしかし、ゆっくりと動き出していた。

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