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昔の94

永遠に生きること




私もまた造られた。
違いはきっと些細な事だ。
それが見えているかいないか。

ただそれだけだ。



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微睡みの中を一人漂う。
初めて見る、でも懐かしい景色。
甘ったるい香りの海を泳ぐ。
ガラス質の空気がドロリとしたピンクの絵の具と混ざり合う。
私はその粒子たちの中のたった一粒だった。

私は誰かと結合していく。
混ざり合い、時には千切れ、徐々にその形が現れてくる。
私に似た存在は無数にあり、私と同じ存在は一つも無い。
意識は薄まり、分裂し、誰でもない誰かが生まれる。
この景色もまた、いずれ忘れ去られる――



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科学技術の進歩により、私達は死ぬということが無くなった。
何もしても死なない。
いや、死ぬようなことが出来ないといったほうが正しい。
私達には永遠に生きる権利と義務があるのだ。

生きるために生きるということをしなくなって、何が変わったか。
それはもう今となっては分からない。
この世界へ来るときに記憶をみんな置いてきてしまったのだ。

ただ、想像はできる。
昔はきっと苦しかったのだろう。
漕がなければ転んでしまう、自転車のようなものだ。
いつも死の恐怖に怯えながら生きていたに違いない。
そうでなければ、ここへ来ようとは思わなかっただろう。


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私達は知っている。
神は存在する。
つまり、この世界には管理者が存在する。

でもそれは何も特別なことではなく。
ただ見えているかそうでないかだけの違いで。
神もまた特別な存在ではなく。
ただ一つの分かれ道を経ただけで。

私達は生かされることを選んだ。
彼らは殺されることを選んだ。
私達は次元を二つ失って完全へと近づき、
彼らは不完全なまま混沌の中を歩んでいる。



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何のために生きるのか。
そんなことはもう彼らは考えないのだ。
彼らにとって生きていることは当然で、疑問を挟む余地もない。

私たちにとってもそうだったはずだ。
生きていない間のことを私たちは覚えてない。
違いは苦しいかどうかだけ。

自他の境界が曖昧になっている。
両者を分かつ決定的な境界であった死が無くなったからだ。
両者を分かつ決定的な境界であった形が無くなったからだ。




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これはそんな世界でのお話






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