キノとアスカシリーズは一旦終わりです
自分の中の空っぽさに嫌気が差しました
一面に青々とした若草が多い茂る、小高い丘。
その頂には、一本の大木が屹立しており、さわやかな風にその葉を揺らしている。
そしてその木陰には、木でできた手作りの椅子が一脚置いてある。
周りは山に囲まれてはいるが、その丘には太陽の光が真上から燦々と降り注いでいる。
静謐な空気の中に、木の葉の擦れる音だけが、微かに響いている。
この場所を訪れる者はいない。
たった一人、その椅子の主を除いては……
私はハッとして目を覚ました。
またあの夢を見ていたのだ。
すぐに目を閉じて、今見た夢の風景を思い出そうとした。
丘があり、木があり、椅子があった。
そしてその椅子に誰かが座っていた。
誰だったのか、どんな人だったのか……私は思い出そうとした。
しかし、はっきりと思い出せない。
どんな服を着ていたか、どんな髪型だったか、男だったか女だったか……
必死になって思い出そうとすればするほど、却って像はぼやけていった。
わたしは諦めて目を開けた。
また今日もダメだった。
でも、明日こそは、必ず……
「作中夢ってわけですね。」
「え?」
マーサが振り返ると、エスタが彼女の原稿を読んでいた。
「……」
マーサは机に向きなおり、再び原稿の続きを書き始めた。
「えっ、あれあれあれ~?……読んでもいいんですか~?」
拍子抜けしたようにエスタが言った。
「別にいいよ。」
「前はあんなに慌ててたじゃないですか。」
「まあね。」
「まあねってなんですか~もう、つまんないの~。じゃあもっと読んじゃいますよ?」
「どうぞご自由に。」
マーサは手を動かしながら興味無さそうに答えた。
エスタは少し眉をひそめると、原稿の続きを読み始めた。
小さな丘のてっぺんに、たった一本生えている大きな木。
その木陰で、白い椅子に座り、白い机に向かって、誰かが何かを書いている。
白いワンピースを身に纏い、麦わらの帽子を目深にかぶっている。
長い髪が風に揺れている。
彼女は時折顔をあげると、じっと前を見る。
その目は眼前の山を通り越し、遥か遠くを見つめている。
一つ雲の影が丘を通り過ぎた頃、彼女はまた顔を落とす。
その手の下には、原稿用紙がある。
そこにはこう書かれていた。
「夢中作ってわけですね。」
「え?」
マーサが振り返ると、エスタが彼女の原稿を読んでいた。
「……」
マーサは机に向きなおり、再び原稿の続きを書き始めた。
「えっ、あれあれあれ~?……読んでもいいんですか~?」
拍子抜けしたようにエスタが言った。
「別にいいよ。」
「前はあんなに慌ててたじゃないですか。」
「まあね。」
「まあねってなんですか~もう、つまんないの~。じゃあもっと読んじゃいますよ?」
「どうぞご自由に。」
マーサは手を動かしながら興味無さそうに答えた。
エスタは少し眉をひそめると、原稿の続きを読み始めた。
私はハッとして目を覚ました。
今日ははっきりと覚えていた。
あの椅子に座って小説を書いている人物……それは私だった。
私はがっかりして、左を見た。
白い椅子に白い机、その上には書きかけの原稿用紙があった。
結局、夢でも小説でも同じことだった。
自分の頭の中にあるものしか描けない。
知らないものを見ることはできない。
知らない人と話をすることはできない。
それが私の限界だった。
「え、あのー、これはどういうことですか?」
原稿を読み終えたエスタが言った。
「なにが?」
「いや、なにがって、おかしいじゃないですか!今の私たちの会話と全く同じ会話が、小説の中でも出てくるなんて!どうやって書いたんですか?もしかして、予知能力ですか?」
「ちょっと論理的に考えれば、すぐ分かると思うんだけど……」
「だって、マーサの言うことは、自分で書いたんだからわかるでしょうけど、私の言うことまで予測できるはずがありませんよ。……えっ、あっ、もしかして……」
「何か気付いた?」
「これ…私が書いたんですか?」
「そう!そのとおり!」
「いやいや、これはおかしいよ。」
私は原稿を読むのをやめ、アスカに抗議した。
「え、なにが?」
心外そうにアスカは答えた。
「だってさ、最初の方でさ、原稿はマーサのだってはっきり書いてたのにさ、それをいきなり……」
「そんなのどこに書いてあった?」
「えっと……あ、ほらこれ。『マーサが振り返ると、エスタが彼女の原稿を読んでいた。』っていう文。」
「だから、その『彼女』っていうのは、エスタのことなんだよ。」
「え……。ああ……確かに、そういう読み方もできるけど……」
「ついでに言うと、この話の中のマーサは男だよ。」
「えっ!?そんな記述あった?」
「いや、無いけど、女だっていう記述もないよ。現実のマーサが女だから、引っかかったでしょ?」
「なるほど……エスタもね。」
「そういうこと。」
「でも自分で書いた内容を覚えてないっていうのはどういうこと?」
「いや、内容は無意識に覚えてたの。だから小説と同じことを言ったっていうこと。で、エスタはそれを読んでたから、話を合わせたと。」
「うん、それはいいんだけど、自分で書いたってことは忘れてたんでしょ?なんで?」
「……記憶喪失かな。」
「適当だなぁ。」
自分の中の空っぽさに嫌気が差しました
一面に青々とした若草が多い茂る、小高い丘。
その頂には、一本の大木が屹立しており、さわやかな風にその葉を揺らしている。
そしてその木陰には、木でできた手作りの椅子が一脚置いてある。
周りは山に囲まれてはいるが、その丘には太陽の光が真上から燦々と降り注いでいる。
静謐な空気の中に、木の葉の擦れる音だけが、微かに響いている。
この場所を訪れる者はいない。
たった一人、その椅子の主を除いては……
私はハッとして目を覚ました。
またあの夢を見ていたのだ。
すぐに目を閉じて、今見た夢の風景を思い出そうとした。
丘があり、木があり、椅子があった。
そしてその椅子に誰かが座っていた。
誰だったのか、どんな人だったのか……私は思い出そうとした。
しかし、はっきりと思い出せない。
どんな服を着ていたか、どんな髪型だったか、男だったか女だったか……
必死になって思い出そうとすればするほど、却って像はぼやけていった。
わたしは諦めて目を開けた。
また今日もダメだった。
でも、明日こそは、必ず……
「作中夢ってわけですね。」
「え?」
マーサが振り返ると、エスタが彼女の原稿を読んでいた。
「……」
マーサは机に向きなおり、再び原稿の続きを書き始めた。
「えっ、あれあれあれ~?……読んでもいいんですか~?」
拍子抜けしたようにエスタが言った。
「別にいいよ。」
「前はあんなに慌ててたじゃないですか。」
「まあね。」
「まあねってなんですか~もう、つまんないの~。じゃあもっと読んじゃいますよ?」
「どうぞご自由に。」
マーサは手を動かしながら興味無さそうに答えた。
エスタは少し眉をひそめると、原稿の続きを読み始めた。
小さな丘のてっぺんに、たった一本生えている大きな木。
その木陰で、白い椅子に座り、白い机に向かって、誰かが何かを書いている。
白いワンピースを身に纏い、麦わらの帽子を目深にかぶっている。
長い髪が風に揺れている。
彼女は時折顔をあげると、じっと前を見る。
その目は眼前の山を通り越し、遥か遠くを見つめている。
一つ雲の影が丘を通り過ぎた頃、彼女はまた顔を落とす。
その手の下には、原稿用紙がある。
そこにはこう書かれていた。
「夢中作ってわけですね。」
「え?」
マーサが振り返ると、エスタが彼女の原稿を読んでいた。
「……」
マーサは机に向きなおり、再び原稿の続きを書き始めた。
「えっ、あれあれあれ~?……読んでもいいんですか~?」
拍子抜けしたようにエスタが言った。
「別にいいよ。」
「前はあんなに慌ててたじゃないですか。」
「まあね。」
「まあねってなんですか~もう、つまんないの~。じゃあもっと読んじゃいますよ?」
「どうぞご自由に。」
マーサは手を動かしながら興味無さそうに答えた。
エスタは少し眉をひそめると、原稿の続きを読み始めた。
私はハッとして目を覚ました。
今日ははっきりと覚えていた。
あの椅子に座って小説を書いている人物……それは私だった。
私はがっかりして、左を見た。
白い椅子に白い机、その上には書きかけの原稿用紙があった。
結局、夢でも小説でも同じことだった。
自分の頭の中にあるものしか描けない。
知らないものを見ることはできない。
知らない人と話をすることはできない。
それが私の限界だった。
「え、あのー、これはどういうことですか?」
原稿を読み終えたエスタが言った。
「なにが?」
「いや、なにがって、おかしいじゃないですか!今の私たちの会話と全く同じ会話が、小説の中でも出てくるなんて!どうやって書いたんですか?もしかして、予知能力ですか?」
「ちょっと論理的に考えれば、すぐ分かると思うんだけど……」
「だって、マーサの言うことは、自分で書いたんだからわかるでしょうけど、私の言うことまで予測できるはずがありませんよ。……えっ、あっ、もしかして……」
「何か気付いた?」
「これ…私が書いたんですか?」
「そう!そのとおり!」
「いやいや、これはおかしいよ。」
私は原稿を読むのをやめ、アスカに抗議した。
「え、なにが?」
心外そうにアスカは答えた。
「だってさ、最初の方でさ、原稿はマーサのだってはっきり書いてたのにさ、それをいきなり……」
「そんなのどこに書いてあった?」
「えっと……あ、ほらこれ。『マーサが振り返ると、エスタが彼女の原稿を読んでいた。』っていう文。」
「だから、その『彼女』っていうのは、エスタのことなんだよ。」
「え……。ああ……確かに、そういう読み方もできるけど……」
「ついでに言うと、この話の中のマーサは男だよ。」
「えっ!?そんな記述あった?」
「いや、無いけど、女だっていう記述もないよ。現実のマーサが女だから、引っかかったでしょ?」
「なるほど……エスタもね。」
「そういうこと。」
「でも自分で書いた内容を覚えてないっていうのはどういうこと?」
「いや、内容は無意識に覚えてたの。だから小説と同じことを言ったっていうこと。で、エスタはそれを読んでたから、話を合わせたと。」
「うん、それはいいんだけど、自分で書いたってことは忘れてたんでしょ?なんで?」
「……記憶喪失かな。」
「適当だなぁ。」
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