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昔の96

星の感傷




そうだ、いま思い出した。
私は昔、あの広い空の名もない星の一つだったのだ。
それが何を勘違いしたのか、今はこんな場所に立っているけど。
でも今もまだ、私はやっぱり名もない星の一つなのだ。

この体を動かしているのは誰なのだろう。
それが私ではないことは、もう分かっていた。
私はずっと昔から変わらず、ただこの世界を見ているだけ。
いつかまた、あの空に還る時まで、少しの間ここにいるだけ。

それは自然の摂理と呼ぶべきものなのかもしれなかった。
大きな大きな時計台の中で二三の歯車の回転を見ているような、
そんな微視的な世界の動きなのかもしれなかった。
でも私には、それだけで充分だった。


青い空と逆さまに覗きこむ顔が見える。
後ろから放射状に光が差し込み、さながら後光のように顔を照らす。
キラキラした顔はあまりに眩しく、私は目を閉じる。

「ほら、いつまで寝てるの!日が暮れちゃうよ!」

私は瞼の中に懐かしい夜空を思い描いていた。
このままずっと目を閉じていれば、次は目の前にそれが見えるだろう。
それはとても素敵なことのように思われた。

あの子もいつか、あの空に還るのだとしたら。

「今日はきっと星がよく見えるだろうね。」
「ん?そうだね、今日の空は青天の霹靂だからね。」
「(青天の霹靂?)だからさ、もうちょっと待っていようよ。」
「もうちょっとって?」
「星が出るまで」
「だめだよー。今日は空襲があるんだから、家の中に避難しとかないと。」
「早く戦争が終わればいいのにね。」
「うん……戦争が終わっても、みんなは帰ってこないけど」

みんなだって元々、あの空のたったひとつの星粒だったんだ。
もう私には見えている。そしてきっと、みんなからも。
ただ、あの子に見て欲しかった。

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