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昔の30

退屈な世界




嫌味なほど真っ青な空が俺の頭上を覆っていた。
吐き気のするような暑さの中、俺は歩いていた。
太陽の明るさに反比例して、俺の心は黒く染まっていく。
俺は奴が嫌いだ。
宇宙全体からみれば別段大きくも明るくもないただの一つの星のくせに、水星やら火星やら地球やら、小さくて弱い星を周りに従えて、さも自分が世界の中心であるかのように威張っているのだ。
『地球の生き物なんてのは、俺がいなくちゃみんな死んじゃうんだぞ。俺こそが神なんだ。哀れな惑星共よ、一生俺の周りを回り続けろ。』なんて思っているのかもしれない。
いや、もちろんそんなこと思ってはいないだろう。
自分がこの世界の中でどのような存在なのか。
そんなこと考えもせずに、ただあいつは輝いている。
だから余計に、俺はあいつが嫌いなのだ。

俺の名は真井瀬海。
特筆するような事項もない、ごく平凡な高校生だ。
大方の人間と同じように、俺もこの退屈な日常に飽き飽きしていた。
将来にも夢や希望があるわけでは無い。
ただ死にたくなる理由もないから、なんとなく生きていた。
これからも、こんなどうでもいい毎日が続いて行くのだろう。
人生なんて、そんなものだ。
そう思っていた。

「ただいまー」
返事がない。
おふくろは出かけているんだろうか?
キッチンへ入ると、机の上に書置きがのこしてあった。
そこには、こう書かれていた。
『まいあおみはあずかった。かえしてほしくばいますぐかえるこうえんへこい。』
これは……ひょっとして、誘拐というやつだろうか?
真井蒼海というのは俺の母親のことだ。
でも、こういう場合って普通、息子の方を誘拐するんじゃないのか?
俺はもう一度紙を見た。
下手な字だ。こどもが書いたように見える。
でも、筆跡をごまかすためにわざと下手に書いたとも考えられる。
それより気になるのは、誘拐の目的が分からないことだ。
身代金を要求するわけでもなく、ただ公園に来いという。
もしかして、誘拐の目的は、俺?
いや、それなら直接俺を攫えばいい。
それに、俺にそんな価値があるとも思えない。
じゃあ、いったいなんなんだ?誘拐犯の目的は……
いや、考えていても仕方ない。
俺は首を振り、急いで外に出た。

かえる公園は、いつも通り閑散としていた。
住宅街からかなり離れているうえに、大した遊具もなく、雑草は伸び放題、クモの巣もあちこちにあるので、誰も近寄らないのだ。
いや、雑草が生えたり、クモの巣が張ったりしているのは、誰も来ないからなのだろうか。
まあ、理由なんてものは、全て人間の自己満足だ。大した問題ではない。
それよりも、重要なのは、事実。もしくは、共通認識。
つまり、この公園は閑散としている、ということだ。

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