現実を見ようという話です
「働こう」と、アスカが言った。
ずっと前から気付いてはいた。
このまま暮らしていると、近い将来、私たちは生きていけなくなる。
私たちは両親の遺していったお金で生活していたのだ。
外からお金が入ってくることは無いので貯金は減る一方だ。
この問題を解決するには、私たちはどうしても働かなければならない。
分かってはいた、分かってはいたけど……
私は無意識のうちにそのことから目を逸らしていた。
そのうちなんとかなるかもしれない、
たまたま買った宝くじが大当たりしたり…
偶然大金の入ったカバンを拾ったり…
いざとなれば生活保護に頼ったり…
そんな非現実的な子供っぽい妄想に逃げていた。
だからアスカの言葉を聞いた時、私はひどく責められている気がしたのだった。
アスカは普段ちゃらんぽらんなようで、本当は私よりもずっと現実を見ている。
アスカの気楽さは厳然と現実に立ち向かっていることの裏返しなのだ。
「夢見博士の研究のお手伝いをさせてもらえることになったんだ。
昨日直接研究所まで行って話を聞いてきたの。
キノのやる気さえあればいつでも働けるよ。」
アスカは軽い調子で言う。
「もちろん、やる。こんなままじゃいけないし」
「良かった!一人じゃさみしいなぁって思ってたんだ。じゃあさっそく連絡してくるね!」
「連絡って、また研究所まで行くの?」
「ううん、メール。じゃあね!」
そう言ってアスカは自分の部屋へ入って行った。
以前、アスカに尋ねたことがある。
「あんたはなんでいっつもそんなにテンション高いの?疲れない?」
アスカはすぐにこう答えた。
「だって、明るいほうが絶対得じゃない!周りのみんなもいい気分になるし、
自分の考え方も前向きになるしさ。暗い顔してたっていいことないよ。
ほら、キノも笑って笑って!」
私は両頬を思い切りつねられ、その痛みで口を動かす気をほとんど失いかけていたけど、なんとか気力を振り絞って聞いた。
「疲れないの?」
「んー……?」
ここでアスカは右手の人差し指を立てて自分の頬に当てた。
わたしは解頬された。
「まあ活発に動くわけだから多少エネルギーは普通より多く消費するけど……
もっと大きいメリットが得られるわけだから、こっちの方が得だと思うよ。」
「おーい、キノー!聞いてるー?」
はっと気付くと、アスカが目の前にいた。
「あっ、ごめんごめん。考え事してた。」
「もー!そんなにぼーっとしてると、牛になるよ!?もうもう。」
「ならないよ。」
「じゃあキノは明日一日『もー』しか言っちゃダメね」
「いやだ」
「わたしもやるからさ。もーもー」
「なんか話があったんじゃないの?」
「うん。あのね、明日から早速働いて欲しいって。」
「ほー。何するの?」
「もーもー」
「は?」
「『もー』しか言わないで一日過ごす。」
「それが仕事?」
「もー」
「嘘でしょ?」
「もーもー」
首を横に振りながら言うアスカ。
「ほんとに?」
「もー」
今度は首を縦に振った。
「ふうん……そうなんだ。」
正直、この時点では、まだ私はアスカの言葉を信用していなかった。
アスカが本気だとようやく分かったのは次の日の朝だった。
「働こう」と、アスカが言った。
ずっと前から気付いてはいた。
このまま暮らしていると、近い将来、私たちは生きていけなくなる。
私たちは両親の遺していったお金で生活していたのだ。
外からお金が入ってくることは無いので貯金は減る一方だ。
この問題を解決するには、私たちはどうしても働かなければならない。
分かってはいた、分かってはいたけど……
私は無意識のうちにそのことから目を逸らしていた。
そのうちなんとかなるかもしれない、
たまたま買った宝くじが大当たりしたり…
偶然大金の入ったカバンを拾ったり…
いざとなれば生活保護に頼ったり…
そんな非現実的な子供っぽい妄想に逃げていた。
だからアスカの言葉を聞いた時、私はひどく責められている気がしたのだった。
アスカは普段ちゃらんぽらんなようで、本当は私よりもずっと現実を見ている。
アスカの気楽さは厳然と現実に立ち向かっていることの裏返しなのだ。
「夢見博士の研究のお手伝いをさせてもらえることになったんだ。
昨日直接研究所まで行って話を聞いてきたの。
キノのやる気さえあればいつでも働けるよ。」
アスカは軽い調子で言う。
「もちろん、やる。こんなままじゃいけないし」
「良かった!一人じゃさみしいなぁって思ってたんだ。じゃあさっそく連絡してくるね!」
「連絡って、また研究所まで行くの?」
「ううん、メール。じゃあね!」
そう言ってアスカは自分の部屋へ入って行った。
以前、アスカに尋ねたことがある。
「あんたはなんでいっつもそんなにテンション高いの?疲れない?」
アスカはすぐにこう答えた。
「だって、明るいほうが絶対得じゃない!周りのみんなもいい気分になるし、
自分の考え方も前向きになるしさ。暗い顔してたっていいことないよ。
ほら、キノも笑って笑って!」
私は両頬を思い切りつねられ、その痛みで口を動かす気をほとんど失いかけていたけど、なんとか気力を振り絞って聞いた。
「疲れないの?」
「んー……?」
ここでアスカは右手の人差し指を立てて自分の頬に当てた。
わたしは解頬された。
「まあ活発に動くわけだから多少エネルギーは普通より多く消費するけど……
もっと大きいメリットが得られるわけだから、こっちの方が得だと思うよ。」
「おーい、キノー!聞いてるー?」
はっと気付くと、アスカが目の前にいた。
「あっ、ごめんごめん。考え事してた。」
「もー!そんなにぼーっとしてると、牛になるよ!?もうもう。」
「ならないよ。」
「じゃあキノは明日一日『もー』しか言っちゃダメね」
「いやだ」
「わたしもやるからさ。もーもー」
「なんか話があったんじゃないの?」
「うん。あのね、明日から早速働いて欲しいって。」
「ほー。何するの?」
「もーもー」
「は?」
「『もー』しか言わないで一日過ごす。」
「それが仕事?」
「もー」
「嘘でしょ?」
「もーもー」
首を横に振りながら言うアスカ。
「ほんとに?」
「もー」
今度は首を縦に振った。
「ふうん……そうなんだ。」
正直、この時点では、まだ私はアスカの言葉を信用していなかった。
アスカが本気だとようやく分かったのは次の日の朝だった。
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