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昔の85

ほんの少しの友達がいた




ほんの少しの友達がいた。
ただそれだけだった。
来る日も来る日も泣いて過ごした。
いつからかご飯を食べなくても平気になった。
私たちはたくさんの子供達を想像した。
汚いものも綺麗なものも皆平等に愛すと誓った。
半月の薄明かりが傾いた窓の中に標本されていた。

一人の友だちがいた。
ピアノを弾くのが好きな子だった。
彼女はいつも悲しい曲を弾いた。
私はひとりその曲を聞くのが好きだった。

「明瀬さんはいつも悲しそうな顔してるね。」
彼女は言った。
悲しくはないんだ。
「これが一番自然な気がするから。」
でもそれは嘘だったかもしれない。
「ううん、責めてるんじゃないの。
 ただ…いいなって思って。」

時はあまりにも静かに緩やかに過ぎていったので、
私は時々朝か夜かわからなくなった。
春か秋かもわからない。
そんなこと気にする方がおかしいのだとさえ思った。

とにかく空虚だった。
そんなことは今だから言えることだ。
生きる事は汚れていくことだ。
それを拒否した私たちは限りなく白かった。

「明瀬さんは幸せ?」
「いいや。幸せじゃない。」
「不幸せ?」
「違う。」
「幸せになりたい?」
幸せになることと、不幸せになることは同義だ。
「なりたくない。」
「そう…」
本当なら、もうとっくに死んでいるはずだった。
そうならなかったのは、私たちがずっと清いままでいたからだ。
私達はたくさんの子供達を愛した。
ただ愛した。
「私は外へ出てみようと思うの。」

終わってしまえばなんという事もない。
私はずっとひとりで死んでいたのだ。
これを読んでいる人がいるなら伝えてほしい。
どうか静かに美しく。

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