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昔の24

23の続きです




朝私が起きると、アスカはリビングで牛乳を飲んでいた。
アスカは言った。

「もーもー。」

私はすぐに昨日の話を思い出したが、まだアスカは冗談を続けているのだと思った。
私は言った。

「もう、ア……」

それを聞いて、アスカはものすごい勢いで私に飛びかかり、私の口をふさいだ。

「もーもー!もーもーももーもー!もー!」

必死の剣幕でアスカが言うが、何を言っているのかは分からない。
ただ、アスカが本気なのだということは伝わった。
私はアスカを振り払い、言った。

「もーもー。」
「もー!もーもー!」

アスカは満足そうに返した。
やっぱり本気らしい。
と、いうことは、今日一日、『もー』しか言えないのか……
外には出られないな。
いや、家の中にいても相当不便だろう。
他人との意思の疎通は、ほぼ出来なくなると考えておいた方がいい。
うん、それは、大変だな。

「もーもー、もーも。」

アスカがたまごパンと牛乳を持ってきて、私に差し出した。
私のために用意してくれたらしい。

「ももももう。」

『ありがとう。』のトーンで、私はお礼を言った。伝わったかな……?
そういえば、昨日アスカは確か、『もー』しか言っちゃいけないって言ってたけど、今のはセーフなんだろうか。

「もーももも ももも。」

アスカが言う。どうやら今のは大丈夫らしい。
相変わらず何を言っているのかはさっぱりわからない。
いや、さっきのはなんとなくわかりそうだったような…
なんて考えながら食べていたら、うっかり牛乳をこぼしてしまった。

「もー!」

そういって、アスカは布巾で牛乳を拭きとってくれた。
妙に優しくてなんだか気持ち悪いけど、気にせず私はもう一度お礼を言った。

「ももももう。」
「もーももも ももも。」

その時私は気付いた。
ああそうか、アスカは『どういたしまして。』と言っていたのだ!と。
私は立ちあがると、アスカから布巾を受け取った。
そして布巾をきれいに洗い、干した。

「ももももう。」

アスカが笑顔で言う。

「もーもももももも。」

私も笑顔で返した。





こんな風に少しずつ通じる言葉を増やしていけば、意外とすぐに円滑なコミュニケーションがとれるようになるのかもしれない。
人間が言語を手に入れていく過程も、おそらくこんなものだったのだろう。
ん、待てよ。
今回のバイトの目的って、もしかしてそういうことなんじゃないだろうか。
最初は冗談みたいな話だと思っていたけど、夢見研究所が意味もなくそんなバイトをさせるわけがない。
言語の成立過程のシュミレート。
それがこの行為の意味……

「もーもー!」

アスカが言った。
大きな紙を両手で広げて持っている。
これは……
モールス信号表だ。

……

『モー』 ルス信号表だ。
……











『 モ ー 』 ル ス 信 号 表 だ 。

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