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昔の105

ラスボスです




お姉ちゃんのことは嫌いだった。
あの人は明るくて、社交的で、なんでも出来た。
あの人は私に気を遣って、色々話しかけてきた。
無理してるのが私にも分かって、そういうところも嫌いだった。
あの人は私とは違うんだと、分かっているのに無意識に比べてしまう、
そんな自分も嫌いだった。
あの人がそばにいる限り、私に存在意義は無いような気がした。

『わたしはお姉ちゃん好きだけどなー』
「あんたに姉なんかいたの」
『わたしのお姉ちゃんはアリスちゃんだよ』
「……どっちかって言うと親じゃないの」
『親って歳でもないでしょー』
「年齢の問題なのか」
『そうだよー。お姉ちゃん大好き!』
「いつも言ってるけどその根拠を言えよ」
『好きだから好きなんだよー』
「ついに開き直ったか」

つまるところ態度が変わっただけで根本は変わってないのだ。
やはりあなたを信用してはいけない。見た目に騙されてはいけない。
それを再度心に深く刻みつけた。

空も地面もまるで真っ黒でその境目すら分からないような有様だったが、
不思議と恐怖を感じることはなかった。
それどころか辺りはどこか優しく安心できるような空気に満ちていた。
ふよふよと浮かぶ光る靄のような物体は触れると拡散して消えていった。
その様子はまるで砂糖が水に溶けるように自然だった。

『ねえ、どこへ行ってるの?お姉ちゃん』
「その呼び方やめろ」
『えっ、お姉さんのほうが良かった?それとも姉御?』
「いつも通りに呼べよ」
『あっ、じゃあわたしも言わせてもらうけど、アリスちゃん最近わたしのこと
あんたって呼ぶじゃない?』
「……」
『前みたいにあなたちゃんって呼んでほしいなー?
じゃないとずっとお姉ちゃんって呼ぶよ?』
「別に呼び方なんかどうだっていいだろ」
『あっそう!じゃあお姉ちゃんって呼ぶからね!お姉ちゃん!お姉ちゃん!』
「うるさい」
『お姉さん!姉御!お姉さま!姉上!ねーちゃん!姉貴!ビッグシスター!』
「わかったよ……あなたちゃん」
『えへへー。ありがとう、アリスちゃん』

果てしない闇の中に、ぼんやりと浮かぶ小さな点が見えた。
近づいていく程にそれは明るく、大きくなっていき、異様さを増していった。
それは光る靄の大きな塊だった。
中心は真っ白に、周りの薄い部分は七色に混ざり合って、
神秘的な雰囲気を醸し出していた。

『わあ……綺麗だね、アリスちゃん。』
「嫌だ」
『アリスちゃん?』
「私は嫌だ。私はあそこへ行きたくない。」

私は肩を抱いた。どうしてあいつがこんなところに。

『えっ、なんで?あんなに綺麗なのにー……行ってみたいなあ
それにあそこに行けばきっとなにか分かるよ』
「じゃああなたちゃんだけ行ってきてよ」
『えー、もうしょうがないなあ』

あなたちゃんと呼ばれて気を良くしたのか、意外に素直に行った。
まだあの人影には気付いてないらしい。
私はしゃがみ込み、気を落ち着けるために呼吸を整えた。
少し落ち着いた頭で、私はあなたをあの場所へ行かせたことを後悔した。
無視して別の道を進めばよかった。
あなたはきっとあの人に話しかけて、そして……

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