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昔の78

続きません




あれから200年経って、人間はみんな賢くなった。
みんな快活で、道徳的で、友好的で、理性的で、
喧嘩なんて誰もしない、嘘なんて誰も吐かない。
刑務所は150年前になくなって、
法律は100年前になくなって、
国は50年前になくなった。



目に入ってきたのは、見慣れた白い天井。
眩しくて、私は少し目を細めた。
あれ、私はまだ生きている。
紅茶をこぼしたようなシミがある天井。
無愛想な窓を通って、爽やかな光が次々と部屋に入ってくる。
私は窓の外を見ようとして、首を回した。
そして気付く。
体が動くということに。

何があったのだろう。
つい昨日まで、あんなに苦しかった体が、今は軽い。
 「なんだこれ……」
窓の外の景色は、想像と全く違っていた。
あの大きなクスノキは影も形もなくなり、
SF映画に出てくるような近未来的な街が、窓の中を埋め尽くしていた。
ひどい。
あの優しい木は、どこへ行ってしまったのだろう。

「おはようございます。」
後ろから声がした。
私は思わず体を起こし、振り返った。
無意識に、こんな動作が一瞬でできたことに驚く。

そこにいたのは髪の長い綺麗な女の人だった。
人を安心させるような微笑を浮かべて、小さな椅子に座っていた。

 「誰ですか?」
「あなたの担当をさせていただいている、看護師のミューモマニックといいます。
 これからもよろしくおねがいしますね。」
 「みゅ、みゅーも……?」
「ミューモマニックです。」
 「担当って、どういうことです?
  そんな話今まで一度も……」
「そうですね。まずそれをお話しないといけないです。
 少し長い話になりますが、よく聞いてくださいね。
 これはあなたにとって、とても大事なお話なので……」
 「あ、はあ…はい……。」

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